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和歌山県の民話

おはらはん

出典:ふるさとをたずねて(むかし話Ⅰ)

発行:海南市教育委員会

今からもう何百(なんびゃく)年も前のことやして。紀ノ川の河口(かこう)にある北島橋(きたじまばし)よりずっと下流のちょうど海と川のさかい目あたりで、きれいな紀ノ川の水流(すいりゅう)と紀伊水道(きいすいどう)の海水がまざりあってうずまいている潮(しお)の中から、一匹(いっぴき)の大きな蛇(へび)が現(あら)われたかと思うや、紀ノ川の流れをよこぎって南岸(なんがん)の方へ泳いでくるんよ。
そのとき、畑仕事に精出(せいだ)していた百姓(ひゃくしょう)どもが「あれよ、あれよ」と見とれているまもなく、たちまちに大蛇(だいじゃ)は白波をたてて南岸に泳ぎついたんやと。
百姓たちはみんなそれぞれにくわやかまを持って、おそるおそる大蛇(だいじゃ)の泳ぎついたところに行くと、そこには 今まで見たこともないような大きくて、それはそれは美しい大蛇(だいじゃ)がいるんや。
その上、口にはまるい真珠(しんじゅ)のようにきれいな玉をくわえて少しも動かんし、その姿が絵にも描(えが)けんばかりの美しさで、みんなみとれるばかりだったんよ。
また、お腹(はら)のあたりには、錦(にしき)を飾(かざ)ったようにぴかぴかと輝(かがや)く輪(わ)をまいているんやして。
それに大蛇は不思議(ふしぎ)にも大きな足も生(は)えていたんや。
あまりの美しい大蛇に百姓どもは、
「これは普通(ふつう)の蛇でないぞ、きっと神様の身代(みがわ)りじゃ」
とうわさしはじめたんや。
少しも動かない大蛇を見て「ありがたい、ありがたい」と口々に念(ねん)じながら、村でお祀(まつ)りしようと大蛇の身体(からだ)を三つに分けたんやして。
頭の方は小野田まで運(はこ)んで埋(う)めてお祀(まつ)りし、お腹の方は阪井の杉尾(すぎお)神社にお祀りし、足の方は重根の千種(ちぐさ)神社にお祀りしたんや。
それで、杉尾神社は「おはらはん」(お腹の神様)と呼ばれて「おなかいた」の人達がお参りするんよ、昔の人は「しゃもじ」をお供(そな)えして「しゃくもち」(おなかいた)をなおしてもらおうとお祈(いの)りしたんよ。
お腹(なか)痛(いた)けりゃ杉尾のお宮
腹(はら)の黒いのはなおりゃせぬ
と歌が残(のこ)っているそうな。

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