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和歌山県の民話

新平(しんぺい)ごかし

出典:のかみの民話

発行:野上町教育委員会

―むかし、新平(しんぺい)というわか者が、福井に住んでいたんや。
新平は体が大きくて、六しゃく(百八十センチ)ほどもあってな、その上ごうせ者でね、お母さんと二人で、米を作ったり、山仕事をしたり、毎日一生けん命はたらいたんで、ごはんもようさん食べたんや。お母さんが、
「朝ごはん、どれだけたこか。」
と新平に聞くと、
「一しょう(一・八リットル)たいて。」
と、たのむんやて。そして、たき上った一しょうのごはんを、うめぼし一こでぺろっとたいらげてしまうんや。またお母さんが、
「新平よ、昼ごはん一しょうたこか。」
と聞くと、新平は、
「たいておいて。」
と、たのむんで、一しょうのお米をたくと、こんこ一切れでぺろっと食べてしまうんよ。それで、夕ごはんも一しょうたいておくと、これまたすっかり食べてしまうんや。
こんなによう食べるんで、新平はますます力持ちになってね、村の人から、
「新平さん、こんど家たてるんで、大きな木切ったんやけど、よう動かさんので助けてよ。」
などと、どんな仕事をたのまれても、
「はい、はい。」
と、気持ちよう引き受けたそうや。それで、村の人たちは、
「新平さんて、えらいやつやなあ。」
と、ひょうばんしてたんや。
ある日、わかいしゅうらが集まって、
「新平のやつ、いつでもにこにこして、いつもおこったことないなあ。いっぺんおこらしてみよら。」
と、ひそひそそうだん始めたんや。ある男が、
「山へ行ってまる太んぼう切ってくるんや。それを、新平が山へ草かりに行った帰り道へならべて、木の葉をようさん上にかぶせて、にわかにちってきたように見せかけるんや。新平のやつ、草ようさんかついで下りてきて、そこへ乗ったら、くるくるとまる太が回って、すってんころりんところぶやろ。そしたら、いつもにこにこしている新平でも、ぐっと顔をしかめるやろ。」
と言うと、みんなは、そりゃおもしろかろということになって、ある日、新平が山へ草をかりに登ったあとへ行って、計画どおり、まる太を切ってならべたんや。そして、その上の林にかくれてようすを見ていたんや。
「もうすぐ新平来るぞ。」
と、しばらく待っていたら、大きな体に草をようさんせ負うているので、ちょうどくまのようなかっこうをしている新平が、どすんどすんと山道を下りてきて、まる太んぼうの上へ乗ったとたん、すってんころりん、思わくどおりころがったんよ。
新平は、道へドスンとたたきつけられ、まりのようにはずんで百メートルもある下の谷へころころところがり落ちてしもた。
わかいしゅうはびっくりして、
「えらいこっちゃ。新平のやつ、大けがでもしたらどないしょう。こんなに下までころがり落ちるて―。」
心配のあまり顔を見合わせていると、
「ワハッハッハー、ワッハッハッハー」
と、とつぜん大きなわらい声が谷のそこから聞こえてきたんや。谷に落ちて大けがでもして「うーん」とうなっているとばっかり思てたのに、元気な声が聞こえたんで、みんな「やれやれ、よかった」と、ほっとしたんや。
そやけど、
「ほっておけん。助けに行こら。」
と、谷そこへ下りていきかけたとき、
「ワッハッハッハー、ワッハッハッハー」
と、また大きなわらい声が聞こえたんや。そして、新平は一人ごとを言うたん聞こえてきたんや。
「大きなに物をせ負うて、とことこ山を下りてきたけど、に物は重いわ、足はいたいわでたいへんやったのに、山の上からまりのようにころころころがって来られたんは、こりゃありがたい。神様のおかげや。ありがたい。」
と、つぶやきながら家へ帰っていったんやと。
こんなことがあってから、福井の安養(あんよう)寺の上の坂道を「新平ごかし」とよぶようになったんやて。

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