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和歌山県の民話

長者屋敷伝説

出典:広川町誌下巻

発行:広川町

下津木滝原(しもつぎたきはら)から小鶴谷(こうずや)をすぎて、地籍でいうと下山田(しもやまだ)の奥にわが町内での高峰、長者が峰がそびえている。この峰に約二アールほどの平地になっている所があり、土地では、お屋敷とよんでいる。
いつの時代か不明であるが、この地に山芋堀の翁(おきな)が居て、秋から冬へかけて山芋を掘ってなりわいとしていたが、ある日のこと、いつものごとく芋を掘っていると、変な音がしたので不思議に思いながら掘りすすむと、大きな壺が出てきた。その中には黄金が一ぱいつまっている。びっくりして一時は夢かと思ったが、さてはここで住居せよとの神のおつげだと、ここにそれは立派な家屋を建てて永住した。そこで土地の人々はこの翁を長者さんとよぶことになった。
さてこの翁に息子があって嫁を迎えることになったので、そこは長者のこと、何とかふさわしい嫁ごと八方手をつくした結果、山城国の長者で角倉という家に妙なる姫君が居て遂にこの姫を嫁にむかえた。さすがに都近くの姫君のこととて、その衣裳は金糸銀糸の目もさめる美しさ、毎年夏の虫干しにはこの山上の屋敷で衣裳を掛けつらねて風を通すのだが、そのまぶしさが四方に輝きわたって、遠く広の海にまでおよんだという。そのために海の魚どもがおそれて湾内に近よらず、漁師たちは大いに困ったことだった。
この話にはまた異伝があった、この芋掘長者の豪壮な構えとその調度の立派さが、遠く阿波の国まで輝きわたった。かねてこの光に不審を抱いていたある阿波の娘が、たずねたずねてこの山上の屋敷にまでたどりついてきた。それも縁あってのことと、そこの長者の息子と夫婦になって幸福に暮したという。
また別伝では、この山で芋を掘っていた若者が居て、どういうしさいがあってか都から嫁ごが来てくれた。なにぶん不便な山居暮しだったので、いつも嫁ごの入用の品を湯浅(ゆあさ)まで買いに行かねばならぬので、若者はその都度嫁から銭をもらって買物使いをしていた。ある日のこと小銭がなくなったので、嫁は黄金を出して、若者に渡した。ところでこのむこ殿、金をふところに広橋までくるとカモメが群をなして飛び交っている。山では見かけぬ鳥なので、ふところの黄金をとってカモメめがけて投げつけたが、ちっともあたらない。とうとう全部を投げてしまい、手ぶらで帰って来た。嫁ごはおどろいて、今日渡したおかねはいつもの小銭とはちがい尊いおたからなのにとなぢった。するとむこ殿けろりとして、あんなものが尊いのならここにはいくらでもあるとて、山のアセンボ(あせび)の株の根元を掘ると小判がざくざくと出てきた。そこで二人はいつまでも幸福に暮すことが出来たという。長者が峰にまつわる伝説である。

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