現在表示しているページ
ホーム > 和歌山の民話 > 美浜町:下部落としと阿弥陀ばい

和歌山県の民話

下部落(しもべお)としと阿弥陀(あみだ)ばい

出典:美浜町史下巻

発行:美浜町

大昔の話でしょうかい。殿さんがありましてな、その殿さんが大勢家来(けらい)をつれてあっちこっちと見廻っていたんでしょうな。ほんだら、今龍王(りゅうおう)さんをまつってる辺りの景色があんまりいいので、とてもお気に入ったんやそうです。ほいで、ここで酒宴(しゅえん)をしようかということになって、そこで酒宴を始めましたんや。とても海はきれいやし、上機嫌(じょうきげん)で殿さんが酒宴をしてましたんやけども、そこの鮑(あわび)を食べたいての言うたんやそうですわ。鮑をとて来い言うたんやけども、その辺りの磯はな、昔は、わたしら娘になった時分(じぶん)でも、ずっとあの辺の磯のもん取ったらいかんというてね、法度(はっと)になってましたな。そこへ行ったらいかんというのは、龍王さんが竜宮(りゅうぐう)から亀に乗ってここへおいでて、神さんがあがった石というのがあるんやそうです。その石はあんまり近寄ったり乗ったりしたらばちあたるていうて、舟もあんまり近寄ったり、人も近寄ったりせんのですわ。そこら辺りは海布(め)とか若布(わかめ)とかようけ茂って、貝らでも他よりか大きなええのがあるんですけども法度やから誰も行かんし、また、そこへ行って、取ったら、後に祟(たた)りがあるていうので、こわいさかいに誰もあそこの磯には入らんのですわ。そいにあそこの磯の鮑をとて来いというのんで、皆しりごみして、恐れてからいに誰もよう行かんと言うたんやそうですわ。ほんならな、殿さんは、そがな馬鹿なことはないて言うてな、なんでもとて来いて言うて、そばにおった下男(げなん)の人にとて来いと言うたので、ほいでもう仕方なしに怖る怖る磯へもて入ったんやそうな。ほいて、入って大きな鮑をとて来て料理してええ調子でやっていたところが、今まで静かだった海がいっぺんに騒ぎ出いて来て、一天(いってん)にわかにかき曇りちゅうんかの、まっ黒けな黒雲が出てな、えらい海鳴りはするわ、稲光りはするわ、大雨は降るわでな、えらい時化(しけ)て来たんやそうな。殿さんは、皆がそんなことをしたらいかんということをしたあるさかいに怖れおののいてしもていますんやとい。ほんなら殿さんにがり切って怒って下部(しもべ)をばあそこへもて突き落とせと言うて、ほいて、蹴りおといたんが、下部落(しもべおと)しいう名前になったんやて、ほいて時化もなおって、殿さんもお城へ帰った。
ところが、毎晩、突き落とされた下部が夢の中へ出てくんのやそうな。ほいでもう殿さんは、それにえらい悩まされて、それにまた、次々と悪いことも起こるんやそうですわ。そいで殿さんは、やっぱり自分はわりかったんかちゅうような気分になったんでしょうかな、そいで阿弥陀像(あみだぞう)を海に沈めて冥福(めいふく)を祈ったんやそうな。そいでそこをば阿弥陀バイちゅう名前につけたんや。

このページのトップに戻る