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和歌山県の民話

狸々(しょうじょう)の話

出典:熊野古道大辺路の民話

発行:和歌山県西牟婁振興局

むかし、田辺に笛の上手(じょうず)な若者がいました。ある晩(ばん)天神崎(てんじんざき)の立戸(たちど)の浜に出て笛を吹いていると、若い、美しい女の子が現われて、「もう一曲吹いて下さい」と頼(たの)むのです。若者が、不思議そうに見ていると、「私はこの海に住む狸々(しょうじょう)(想像上の怪獣(かいじゅう)、髪の毛が長く紅い)の娘です。あなたの笛をきいてどうしてもお会いしたくこうやってきました。どうかお願いします」としきりに頼むので、若者は望みのままに何曲か吹いてやりました。娘は、たいへん喜んで、「私はこれで海に帰ります。笛のお礼に釣道具を差し上げます。この釣糸は餌(えさ)がなくても、ほしい魚がほしいだけ釣れます」といって、自分の髪の毛を一本抜いて、その先へ釣針をつけて若者にくれました。
若者は半分疑(うたが)いながらも、教えられた通り岩の間へ釣糸を垂(た)れますと、サバやタイ、カツオなど思うままに釣れました。
若者は最初に釣りをした場所は、いまも天神崎で「狸々」と呼ばれているところです。若者はその後白浜の堅田浦(かたたうら)へ移り住んで、女の子からもらった釣道具をその土地の八幡(はちまん)さまへ納めました。それで、堅田にも「狸々が崎」という名がついたのです。また細野(ほその)に「狸々小屋」という家号(やごう)の家があります。それは狸々が海から上ったのを強い酒で酔(よ)わせて捕えたところだといわれています。八幡さまのお祭りに使う狸々の毛はその時取ったものだといわれています。

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