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和歌山県の民話

人柱(ひとばしら)になった彦五郎

出典:上富田町史史料編下

発行:上富田町

昔はない、富田川(とんだがわ)はよう大水出て、そのたんびに田んぼや畑が流されてん。ほいでに村の人は、大雨にも崩れんしっかりした堤防ほしなあて思やってん。ある年もまた大水出てない、人も馬も流されて死ぬし、田んぼも畑も埋まってしまうような目におうたんで、もう、今度こそしっかりした堤防ほしいちゅうんで、氏神(うじがみ)さんにまいってお願いしてん。ほいたら夢枕(ゆめまくら)に神さんが現れて「堤防に人柱を立てよ。そいたら堤防は安全や」て言うてんとう。人柱ちゅうのは、神さんの心を慰(なぐさ)むるちゅうて、生けったある人を土の中に埋めることやぜ。

さあ、いったいだいを人柱にしようかて、村の人は何べんも寄り合いしてんけど、なかなか決まらなんでん。ほいたら、その場にいた彦五郎はんがさって立ち上がって「こんがに相談しても人がないんやったら、わしに考えあるんやけど、言うてもええか」て言うてんとう。村の人は、日ごろ無口な彦五郎が、急に大きな声でしゃべり出いたんでびっくりしてそっち見たら、不精(ぶしょう)ひげいっぱい生やいた顔を、赤茶けた手拭(てぬぐい)の端で拭きもて「わしが思うに、あがから人柱になりたいていう人らおらんやろ。ほいで、この場で、着物のつぎが横継ぎにあたったある人あったら、その人に人柱になってもらおやないか」て言うんや。

村の人ら、なっとうしょうかてよわりこんだあったもんやさか、そいはええ考えやちゅうて、みんなお互いの着物のつぎ見せおうてんとう。ほいたら、なんとまあ、言い出いた彦五郎はんの着物に大きな横継ぎのつぎが当たったあってんとう。ほいで、とうとう彦五郎はんが人柱になってん。

そいからこっち、富田川の堤防はどんがにえらい雨降っても切れんようになってんとう。その堤防は今も彦五郎土手ちゅうんや。ほいから彦さんと五郎さんのおとついやったていう人もあら。

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