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和歌山県の民話

少女峰(ほう)物語

出典:熊野古道大辺路の民話

発行:和歌山県西牟婁振興局

古座川(こざがわ)の月の瀬という村の近くに、少女峰(しょうじょほう)という高い垂直の山がそびえています。村の人はその山を十七夜岳(じゅうしちやだけ)とも呼んでいました。

今から五百年の昔、少女峰の麓(ふもと)に大屋源次郎(おおやげんじろう)という男が家族とともに住んでいました。その大屋の家におふじと呼ばれる十七歳になる娘がいました。

おふじは顔形が美しい上に気立てがやさしかったため、近隣はもとより遠い土地の若者たちも皆、おふじを嫁にほしいと思っていました。それで毎日のように、大勢の若者たちがおふじの家を訪ねて来て「嫁に来てほしい」と頼んだのですが、おふじは誰の所へも嫁に行こうとはしませんでした。

実は、おふじには意中(いちゅう)の男がいました。その男は月の瀬からかなり離れた重畳山(かさねやま)の神王寺(しんのうじ)に泊まっていた美しい旅の修行僧でした。しかし、おふじの恋は実らないままに月日が過ぎていきました。

ところで、この頃、古座の沖に黒島(くろしま)という小さな島があり、そこに海賊(かいぞく)たちが住み、頭目(とうもく)の藤四郎に率(ひき)いられて海上を暴れ回っておりました。もっぱら樫野崎(かしのざき)の沖や串本海峡を通る船を襲い船や積み荷を奪ったりしていましたが、時には上陸して近くの民家を荒らすこともありました。

ある日、この藤四郎がおふじの美しさに目をつけ、おふじを自分の妻にしたいと思って、大勢の手下を連れておふじの家にやって来ました。そしておふじを無理やり島へ連れて行こうとしました。しかし、おふじは藤四郎を嫌い、重畳山をめざして逃げようとしました。

けれども、か弱い乙女の足ではどうすることもできません。おふじは重畳山へ行き着かないうちに、藤四郎に追いつめられてしまいました。逃げ場を失ったおふじは、少女峰の上から古座川の渕へ跳び降り、死んでしまいました。

少女峰の麓には、毎年夏の初めに赤いサツキの花が咲き、青い渕に影を映すようになりました。それはおふじの化身(けしん)だといわれています。それ以来、村の人たちは毎年十七日の美しい夜に少女峰の下の川原に出ておふじのために線香をあげ、供養をするようになったといいます。

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