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和歌山県の民話

久保(くぼ)の小女郎(こじょろう)

出典:北山村史下巻

発行:北山村

時代は不詳(ふしょう)だが、大沼(おおぬま)村に絶世(ぜっせい)の美人がいた。その姿形(すがたかたち)のよさ、顔だちのやさしい美しさを讃(たた)えて「久保(くぼ)の小女郎(こじょろう)」と呼んでいたという。

小女郎は年齢十七、八、頭髪は烏(からす)のぬれ羽の如(ごと)く黒くて長く、そのふさふさとした美麗(びれい)さは他に比ぶべきものがなかった。この美女にも一つの謎があった。すなわち、老父母を悩ます事件がおこった。彼女が毎日履いている草履(ぞうり)がしっとりと濡れ、その上に細かい砂にまみれていることであった。そして、小女郎の素振(そぶ)りも不審さを感じさせていた。そこで母親は、手をかえ品をかえして聞き出そうと努めたが、ただ頭を振るだけで答えてはくれない。百方万策(ひゃっぽうばんさく)のつきた母親は、ある夜娘の髪に白い糸玉をとりつけた。それに気づかない小女郎は、深夜寝床(ねどこ)から起き出してふらふらと家を出て行く。母親は不安と戦慄(せんりつ)にかられながら白糸玉の跡を追った。すると、北山川を渡り神川村大井領の船戸(ふなど)の池に糸玉は消えたのだった。母親は大声をはりあげて娘の名を叫んだが、ただ山々にこだまするだけだった。

暫(しばら)くすると、どこからともなく娘の声が聞えてきた。娘の無事を内心で喜びながらじっと伏して声のする方を見守っているとき風がにわかに吹きすさび、池の面(おもて)がさわがしく竜巻(たつまき)の如(ごと)くに水さがりて、その中央に娘を口にくわえた大蛇の姿を発見したのだった。娘は大蛇の口の中にありながらにっこりと笑って、「私はこの池の主と二世を契(ちぎ)りました。今日まで誰にも知られずに二人の恋は続きました。しかしもはや、母に知られた今となっては、池の主は私を帰してはくれません。母よさらばでございます。」といって池の中に消えてしまった。

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